小児科クリニックの開業資金はいくら必要?自己資金はいくらあればいいの?

小児科クリニックの開業には、どのくらいの資金が必要になるのでしょうか。
小児科は高額な医療機器は少ない一方で、発熱外来と一般外来の動線分離や、待合のつくり方、迅速検査や院内処方の体制、予約・呼び出しシステムの整備、そして駐車場の確保など、“設計と運用”に関わる投資がポイントになります。必要な金額は、面積や導線設計、機器の導入範囲、システムの有無によって変わってくるといえるでしょう。
そこで今回は、小児科の開業資金の考え方や自己資金の目安、資金調達の組み立て方、そして開業を成功に近づけるコツを、初めての方にもわかりやすくまとめました。どうぞ参考にしてみてください。

 

まずは、私の自己紹介をします。プラザ薬局の医院開業担当をしている田中と申します。

元々医療器機ディーラーで17年務めており、この間に内科ドクター2名、整形外科ドクター6名の開業支援を経験しました。その後、ドクターの開業コンサルティング業務をメインに行うようになり、医療モールの組成も行うようになりました。その間、内科5名、皮膚科2名、小児科4名、整形外科6名、心療内科2名、眼科1名、継承開業にて内科2名の開業を支援しました。そのほか、ドラッグストア併設のクリニック誘致も行っています。

このように、様々な診療科の開業支援、そして医療モールの組成を行い、成功に導いてきました。これまでの経験をもとに、医療モールで開業を検討中のドクターの皆さんに少しでも役立つ情報をお伝えできればと思います。

 

小児科の開業資金はいくら必要?

小児科は高額な内視鏡・手術機器を要しない分、同じ内科系でも消化器内科や循環器内科より初期投資を抑えやすい一方、感染対策のための動線分離や待合・隔離室を選ぶ場合は床面積と設備費が膨らみます。規模・仕様にもよりますが、概ね8,000万〜1億円前後からの計画が一般的なレンジです(物件条件・在庫運用・検査導入の深さで前後)。また、必要面積はおおむね40坪が目安です。広めの待合や隔離スペースを確保する場合は上振れします。50坪になると少し広すぎるかなという印象です。

40坪のクリニックと仮定した場合の開業費用について、ざっと内訳の例をご紹介すると、以下のようになります。

 

建築関係(約3,350万円程度)

内装費用  3,000万円
看板費用  150万円
設計費  200万円
その他費用(建設協力金など)
+賃料

 

創業費用(約3,000万円程度)

償却資産税(内装費)
抵当権設定登記
不動産仲介手数料 50万円

行事費用
(印刷物、HP、求人掲載、お花など)

 200万円
保証金  300万円
医師会入会金  450万円
開業時運転資金  2,000万円

 

器械・什器・備品など(約1,100〜1,700万円程度)

電子カルテ(PC含む)  400万円

各種医療機器(CPR検査、X線、CR、PACSなど)

 150〜600万円
予約システム  80万円

什器
(机、ソファー、ロッカー、診察台など)

 250万円
その他備品
(小物、衛生用品など)
 150万円
自動釣銭機 220万円

 

小児科ならではの投資が増える箇所としては、以下のようなポイントがあります。こうしたポイントを抑えて開業資金を準備しましょう。

 

  • 感染対策・動線分離

特にコロナ禍以降については、発熱と非発熱、予防接種と健診が交差しない設計が前提となります。隔離室・専用入口・換気強化などで床面積や内装・設備費が上振れしやすいといえます。

 

  • 予約・呼び出しシステム

Web予約や順番管理、LINE通知、オンライン問診などの導入には初期費用と月額費用がかかります。院内モニターやWi-Fi、自動釣銭機との連携まで整えると一定のIT投資になりますが、待合の混雑を抑えられ、結果として必要な待合面積や賃料負担の軽減にもつながります。

 

  • 迅速検査・CRP

本体の導入に加えて、試薬や保守、品質管理といった継続費用が発生します。流行期は消耗品の使用が増えるため、在庫と保管スペースをやや多めに確保し、資金繰り計画にあらかじめ織り込んでおくとスムーズです。
CRP検査機器は150万程度、X線、CR、PACSなどを入れると、プラスで300〜500万円程度かかります。腹部エコーも入れる場合は、さらに250万程度かかると考えてください。

 

  • 駐車場

必要台数の確保に加え、出入口の安全性や車寄せ、ベビーカーの動線、雨天時の乗降のしやすさ、サイン計画まで配慮すると外構費用がかさみがちです。敷地内での確保が難しい場合は、医療モールでの開業や近隣駐車場の借り上げなども含めて検討すると、集患のしやすさと費用のバランスを取りやすくなります。

 

自己資金はいくらが妥当?

融資を前提としても、開業プロジェクトでは物件契約時の保証金や仲介手数料、設計・内装の着手金など“先に出るお金”が必ず発生します。無理のない自己資金の基準は総投資の約1割で、まずはこの“現金の厚み”を確保しておくと、融資実行前の支払いに耐えられるだけでなく、開業初期の運転資金に余裕を持たせられます。自己資金は「早い支払いへの即応」と「融資審査での信用」という二つの役割を担いますが、すべてを使い切らずに現預金バッファを残す配分が安全です。とくに小児科は季節変動が大きく、流行期の消耗品・人員の増強、閑散期の固定費吸収など、キャッシュの上下動に耐える体力が求められます。また、18歳以下の子供を対象とした医療費無料制度や助成制度(1回あたりの支払いが300〜500円程度)を実施している自治体が多いため、窓口収入が少ない点も考慮しなければならない重要なポイントです。他の診療科と比較して、運転資金に余裕を持たせておくと良いでしょう。さらに開業直後の収益立ち上がりに時間差があることも踏まえ、当面の月次キャッシュフローを見通したうえで、自己資金の使い道ををあらかじめ仕分けておくとリスクが下がります。

 

足りない部分はどう資金調達する?

融資による資金調達が一般的です。金利環境にもよりますが、基本的には自己資金を出し切るのではなく、自己資金と本融資・つなぎ融資のバランスを取りつつ運転資金に厚みを残すほうが、不確実性の高い立ち上げ期には合理的です。
設備投資は段階導入を基本とし、開業初期は診療に不可欠な最小構成(例:CRP測定装置など)から始めます。一方で、レントゲンのように地域連携で代替できる可能性がある機器は、患者数や疾病構成、紹介ネットワークが固まってから増強を判断すると固定費の膨張を抑えられます。リースや割賦も選択肢に入れつつ、月次のキャッシュフローに与える影響を試算し、繁忙期・閑散期の変動に耐えうる返済計画を組むことが安定運営への近道です。

 

小児科の開業が成功するのに重要なポイントとは?

この章では“設計・運用・人材・体験”の実務にフォーカスします。小児科の開業においては、どの診療科においても重要な立地条件に加え、特に小児科に重要とされる「駐車場」「看護師」「保護者からの評判」という三つの現場感を軸に解説します。

 

立地の基本:生活導線と“買い物動線”、そして駐車場

子ども連れ来院は自家用車・自転車・ベビーカーが多く、駐車場の有無・出入りのしやすさが来院意欲を大きく左右します。自転車に乗せることができない体調の悪い子供を連れている場合には車での来院を選択する保護者が多いため、その中でも特に「駐車場が重要」です。スーパー併設・医療モール内は視認性・相乗来院が見込め、駐車スペースも確保でき、外待合運用(車内待機)もしやすい実利があります。駐車場が弱い立地では集患効率が上がりにくいため、物件選定段階で最優先事項として評価します。

足元人口と競合数のチェック:需要と差別化の見える化

開業候補地では、“足元人口”とくに0〜14歳人口やファミリー層の流入傾向(新築分譲・賃貸の供給、出生数、保育園・幼稚園数)をまず把握します。同時に、近隣小児科の“数”だけでなく、診療時間帯・予約体制・駐車場の充実度・予防接種/健診の枠・口コミなど実効キャパも評価しましょう。基本的には、半径500mに競合が多くあると成功確率が低くなるといえます。母集団が十分で競合の強みが限定的なら勝ち筋は作れますが、足元人口が薄いエリアでは好物件でも集患は伸びにくい可能性があります。この前提を物件選定の初期段階で明確にしておくことが、失敗リスクを大きく下げます。

 

面積とゾーニング:40坪を基準に“発熱と健診の分離”

面積の目安は40坪です。発熱外来と一般外来(予防接種・健診)が交わらない動線・受診導線の設計は、コロナ後も基本概念として有用です。専用入口・隔離室・別動線などの構造配慮が感染対策と患者安心感に直結します。ベビーカー置き場、授乳・おむつ替えスペースも忘れずに計画します。

 

待合は“広く作りすぎない”発想と呼び出しシステム

LINE等の呼び出しや予約・順番取りシステムを整え、外待合(車・屋外)を取り入れると、待合の“密”を避けつつ過剰面積を抑えられます。これにより賃料負担の圧縮と患者満足の両立が可能です。車を待合室がわりに活用する意味でも、前述の駐車場が重要なのです。

 

検査・機器:迅速性と費用対効果の線引き

  • CRPはほとんどの方が導入している代表的POC機器です。まずは最小構成からスタートし、季節や患者構成を見て追加するとよいでしょう。
  • RSV/インフル/溶連菌等の迅速検査は導入優先度が高く、流行期の消耗品在庫計画も同時に立てます。早く結果を知ることができることは患者にとってメリットにはなりますが、その分導入コストがかかりますのでバランスを考える必要があります。
  • レントゲンは入れる入れないが半々程度というのが現場感です。こちらも導入費用はかかりますが、患者にとってはクリニック内で完結できることは大きなメリットです。患者の負担が少なくて済むように、レントゲンを撮ることができる病院が近隣にあるかどうかなど、地域連携で代替できるかを冷静に判断します。

 

人材:看護師さんが重要

採血・点滴が難しい乳幼児に安全・迅速に対応できる経験値は、患者満足と診療効率を大きく左右します。こうした場面で乳幼児をサポートする役割は看護師が担うため、小児科は看護師の存在感が大きい診療科といえます。NICU/PICU/小児科クリニック経験者の看護師採用は“差が出る投資”です。子供の扱いに慣れているかどうかは、大きな差となって現れます。医師の診療方針と声かけの型を共有し、看護師が子供や保護者に安心感を与えられるような体制を整えることが望ましいです。

 

ターゲットは“子ども”だけではなく“保護者”

子供が来院しやすい空間であることも大事なことではありますが、来院の意思決定の多くは保護者、とりわけ母親が担います。診療説明の分かりやすさ、安心感の醸成、スタッフの声かけ、オンライン情報発信、駐車場動線、待ちやすい環境(トイレ・授乳・おむつ替え・キッズスペース)がより重要です。「子どもに好かれるよりも保護者に好かれることが重要」という視点を持って意識して判断してください。

 

診療時間と季節変動:運用の“山谷”に耐える

小児科は月ごと・季節ごとに受診数の波が大きく、流行期は一気に増え、落ち着く時期はぐっと減ります。RSVやインフルの流行時期をあらかじめ年間カレンダーに落とし込み、混む時期はスタッフを増やし、空く時期は勤務を調整するなど、シフトと予算に“伸びしろ”を持たせましょう。資金面でも、流行期の残業費や消耗品・検査キットの追加購入に備えて運転資金を多めに確保しておくと安心です。ピーク時には外待合の活用、臨時スタッフの投入、試薬やマスク等の在庫を厚めに持つことで、受付や検査の詰まりを防げます。

 

院内処方か院外処方か:水剤スペースが鍵

院内処方は会計一体・迅速交付など患者メリットが大きい一方、調剤スペース・在庫・人件費の負担が増えます。とりわけ小児は水剤が多く棚と動線が必要となります。導入可否は立地面積・人員・在庫回転で総合判断しますが、基本的には院外処方がよいでしょう。

 

専門コンサルタントが伝える成功パターンと失敗パターン

この章では、小児科クリニック開業における成功パターンと失敗パターンをご紹介します。

成功パターン

  • 買い物動線&駐車場を最優先にした立地選定

スーパー併設の医療モールや、日常の買い物生活導線上で視認性の高い区画を選び、十分な駐車場を確保したケースは立ち上がりが速い傾向です。車寄せ・ベビーカー動線・雨天時の乗降まで含めた外構計画を行い、LINE等の呼び出しシステムで“外待合(車内待機)”を運用すると、待合の密回避と面積最適化(=賃料圧縮)を同時に実現できます。

 

  • 発熱/予防接種・健診の“動線分離”を徹底

入口の分離、隔離室や前室の設置、受診〜退室までの一方通行導線など、発熱と非発熱(予防接種・健診)が交差しないゾーニングを初期設計から織り込んだ事例は、患者の安心感と回転効率が高まり、キャンセル低減にもつながります。

 

  • 看護師主導で“現場力”を底上げ

採血・注射が難しい乳幼児対応に長けた小児科クリニック経験者の看護師を核に据え、声かけ・導線誘導まで看護師が主導する体制を整えた事例は、診療の安全性と保護者満足の双方で成果が出ています。医師が診療に集中しやすくなり、全体の処理能力も上がります。

 

  • “保護者体験”を設計思想の中心に

意思決定の主役は子どもではなく保護者です。わかりやすい説明、スタッフの寄り添い、Web/LINEでの情報発信、過ごしやすい待機環境(授乳・おむつ替え、待ち時間の有効活用の選択肢)を総合設計した医院は、口コミが波及して安定集患につながります。

 

失敗パターン

  • 子ども人口の薄いエリア/競合過多のエリアを選んでしまう

ファミリー層の流入が弱い、賃貸マンション供給が細い、既に同質の小児科が密集といったエリア選定のミスは致命的です。小児科は患者層が限定的なので、他の診療科よりもエリア選定の重要度が高いです。ターゲットは“若い層が入ってくる地域”。競合状況と差別化余地をシビアに判定する必要があります。

 

  • 設備の“前のめり投資”で固定費を膨張させる

“最初からフル装備”で機器を入れ過ぎると、消耗品や保守も含めたランニングが想定以上に重くなります。レントゲンは導入しない選択も一般的で、CRP等の必須最小構成から段階拡充するのが安全です。

 

  • 人材ミスマッチとマネジメント不全

小児経験の薄いスタッフで体制を組むと、手技・導線誘導の質が上がらず、保護者の不安が増幅します。“看護師さんが重要”であることを前提に、経験者の採用と役割設計を主導し、チーム運営の基盤を整えることが不可欠です。

 

  • 診療時間が短い、診察終了時間が早いために患者が増えない

共働き家庭が増える中、小児科で8コマ以下、17:00終了は“放課後・保育後”の最需要帯を逃します。16:45や17:00受付終了では「園に迎えに行った後では間に合わない」と受診断念が連発。休診が重なると「行きたい時に開いていない」先入観が定着し、他院で予防接種・健診を始めた家庭はそのまま定着しやすく、戻りにくいのが現実です。
少なくとも週1〜2日は18:30まで延長するなどし、最低でも全体で9コマ、できれば10コマ以上は設定することが望ましいです。

 

専門コンサルタントが見た実際の成功事例

30代後半の男性医師の成功事例です。小児科クリニックの開業にあたり、立地の選定にこだわりました。選んだ場所は、地域の人々が日常的に利用する大型スーパーに併設された医療モールの一角です。広い駐車場を完備しており、車での来院が多い小児科患者にとって非常に利便性の高い環境でした。保護者が子どもを連れて通いやすい場所であることは、成功の第一歩となりました。

 

また、診療の待ち時間を快適に過ごせるよう、LINEによる順番予約システムを導入しました。呼び出しがかかるまでの間、保護者はスーパーで買い物を済ませることができるため、時間を有効に使えます。この仕組みは患者家族から大きな支持を集め、「待ち時間がストレスにならないクリニック」として地域に定着しました。

 

競合環境についても慎重に分析しました。スーパー併設型の医療モールの場合、周辺への新規開業抑制効果が働きます。こうした立地の優位性により、競合が増えにくい環境を確保し、安定的に患者を集めることができたのです。

 

さらに、地域特性として人口減少のリスクが少なく、子どもの数も急激に減っていないエリアを選んだ点も功を奏しました。子どもが減少傾向にある時代だからこそ、人が集まりやすい場所に開業することが重要であり、この医師はその原則を忠実に実行しました。

 

実際、併設されたスーパーは年間売上が30億円規模を誇り、来客数も圧倒的でした。買い物に訪れる保護者が自然にクリニックの存在を認知するため、宣伝効果も抜群でした。他のスーパーは周辺に少なく、この立地は地域で特別な存在となりました。

 

そして何より、この医師の誠実で優しい人柄が成功を後押ししました。小さな子どもに寄り添い、保護者の不安にも丁寧に耳を傾ける姿勢が口コミで広がり、「子どもと一緒に安心して通えるクリニック」として地域に愛されるようになったのです。

 

こうして、小児科クリニックは開業から間もなく「はやるクリニック」と評されるまでに成長しました。立地戦略、システム導入、そして人柄の三拍子が揃ったことで、この医師は安定した地域医療の拠点を築き上げることに成功したのです。

 

まとめ

小児科クリニックの開業資金は、導入が推奨される医療機器が少ない分“設計と運用”への投資がカギとなり、目安は8,000万〜1億円前後、面積は40坪程度が起点になります。初期投資が比較的少ないので、サテライト展開もしやすい診療科です。
費用を左右するのは、発熱と非発熱(予防接種・健診)の動線分離や待合の最適化、迅速検査や院内処方の可否、予約・呼び出しシステムの整備、そして何より駐車場の確保です。自己資金は総投資の約1割を目安に、物件・内装の先行支払いと季節変動に耐える運転資金バッファを厚めに確保し、自治体の小児医療費助成で窓口収入が薄くなりやすい点も織り込みましょう。
資金調達は融資が基本です。設備はCRPや主要迅速検査から段階導入、レントゲンは地域連携で代替できるかを見極めて判断してください。
動線分離と外待合を前提とした運用、小児科対応経験豊富な看護師による現場力、保護者に伝わる丁寧な説明と安心感の設計を徹底すれば、無理のない初期投資でも口コミとリピートにつながる安定経営に近づでしょう。