クリニック開業を成功させるために最も重要な要素の一つが「エリア選定」です。大阪は人口約880万人を抱える日本有数の都市ですが、地域によって人口構成や医療機関の分布、患者ニーズは大きく異なります。
同じ診療科でも、開業するエリアによって患者層や医療需要は大きく変わります。住宅地では地域密着型医療の需要が安定しやすい一方、都市中心部ではビジネスパーソンを中心とした都市型クリニックのニーズが生まれます。
しかし、開業エリアを検討する際に「人気住宅地だから」「人口が多いから」といった感覚だけで判断してしまうと、競合の多い激戦区に出店してしまう可能性があります。そこで重要になるのが、公的データを活用したエリア分析です。
今回は、地域医療情報システム(JMAP)や地域経済分析システム(RESAS)などの公的データを参考にしながら、大阪でクリニック開業を検討する際のエリア分析の考え方と、開業エリア選定のポイントを解説します。
JMAP(地域医療情報システム)で見る「激戦区」

クリニック開業のエリア分析でまず確認したいのが、医療機関の分布です。
地域医療情報システム(JMAP)では、全国の医療施設数や人口に対する医療機関数を確認することができます。このデータを活用することで、医療機関が集中している地域、いわゆる「競合過密エリア」を客観的に把握することが可能です。
大阪府内で医療施設数が多い自治体としては、次のような地域が挙げられます。
*医療機関が多いエリアの例 ※大阪府の人口10万人あたり施設数: 93.44
・大阪市北区: 265.47(大阪府平均に対して+172.03)
https://jmap.jp/cities/detail/city/27127?pref_id=27&medical_area_id=
・大阪市中央区: 337.43(大阪府平均に対して+243.99)
https://jmap.jp/cities/detail/city/27128?pref_id=27&medical_area_id=
・大阪市天王寺区: 227.64(大阪府平均に対して+134,2)
https://jmap.jp/cities/detail/city/27109?pref_id=27&medical_area_id=
・大阪市阿倍野区: 163.07(大阪府平均に対して+69.63)
https://jmap.jp/cities/detail/city/27119?pref_id=27&medical_area_id=
・豊中市: 103.10(大阪府平均に対して+9.66)
https://jmap.jp/cities/detail/city/27203?pref_id=27&medical_area_id=
・吹田市: 95.18(大阪府平均に対して+1.74)
https://jmap.jp/cities/detail/city/27205?pref_id=27&medical_area_id=
大阪市中心部は、大型病院や専門クリニックが集まる医療集積エリアとなっています。特に梅田や本町などの都市中心部では昼間人口が多く、都市型クリニックの需要は高い一方で、駅周辺には多くのクリニックが存在しています。
また、北摂エリアの豊中市や吹田市も人気の住宅地ですが、その分クリニック数も多く、エリアによっては開業競争が激しくなっているケースがあります。
このように、人口が多く人気の高い地域は、必ずしも「開業しやすいエリア」とは限りません。開業エリアを検討する際には、人口規模だけでなく、人口に対する医療機関数といった医療供給量も確認することが重要です。
将来推計人口(RESAS)で見る「10年後も勝てる場所」

クリニック開業では、現在の人口だけでなく、将来の人口動態も重要な判断材料になります。
クリニック経営は長期的な事業であり、開業後は10年、20年と継続していくことが前提になります。そのため、人口減少が進む地域では、将来的に医療需要が縮小する可能性があります。こうした分析に役立つのが、地域経済分析システム(RESAS)に掲載されている将来推計人口です。
大阪府の人口動態をみると、地域によって今後の人口推移には差があることが分かります。大阪市中心部や北摂エリアでは人口が比較的維持される地域もある一方で、郊外では人口減少が進むと予測されている自治体もあります。
ただし、人口が減る地域でも医療需要がなくなるわけではありません。
特に注目すべきなのが高齢化率です。人口が減少しても高齢者人口が増える地域では、慢性疾患の通院ニーズが増え、医療需要が維持されるケースもあります。
そのため、開業エリアを検討する際には
・総人口の推移
・高齢者人口の割合
・世帯構成
といったデータを総合的に確認することが重要です。
RESASなどのデータを活用することで、「現在人気のエリア」ではなく「将来も医療需要が続くエリア」を見つけるヒントになります。
例えば大阪府内でも、人口が比較的維持されると予測されている地域や、高齢者人口の増加が見込まれている地域などは、医療需要の観点から開業エリアとして検討されるケースがあります。
*将来の人口動態を確認しておきたいエリア例
・吹田市
5市を比較すると、いずれも老年人口が右肩上がりなのが特徴。東大阪市と堺市は年少人口の減少幅が大きい。
診療科別の「需給ギャップ」

クリニック開業では、人口が多い場所を選ぶだけでは十分とは言えません。重要なのは、その地域でどの診療科が不足しているのかを把握することです。
前述のように、大阪市中心部や北摂エリアなどでは医療機関が多く集まる地域もあり、人口が多いからといって必ずしも開業しやすいとは限りません。医療機関が集中しているエリアでは競争が激しく、診療科によっては新規開業が難しいケースもあります。
そのため、開業エリアを検討する際には、地域ごとの医療機関数だけでなく、診療科ごとの需給バランスを確認することが重要になります。
つまり、地域ごとの「医療の需給ギャップ」を見つけることが重要になります。
例えば住宅地が多い地域では
・小児科
・耳鼻咽喉科
・皮膚科
などの需要が高くなる傾向があります。
一方で、ビジネス街では
・内科
・心療内科
・婦人科
など、働く世代が受診しやすい診療科の需要が高まることがあります。
また、高齢化が進む地域では
・一般内科
・整形外科
・在宅医療
などのニーズが増えるケースもあります。
このように、同じ大阪府内でも
・人口構成
・医療機関数
・診療科分布
によって、地域の医療ニーズは大きく変わります。
JMAPなどのデータを確認しながら、人口に対して医療機関が少ない診療科を探すことで、競争が比較的少ない開業エリアを見つけることができる可能性があります。
まとめ

大阪でクリニック開業を成功させるためには、エリア選定を「感覚」ではなく「データ」で判断することが重要です。
例えば、地域医療情報システム(JMAP)を確認すれば医療機関の分布から競合状況を把握することができ、地域経済分析システム(RESAS)の将来推計人口を活用すれば、地域ごとの人口動態や高齢化の傾向を確認することができます。
さらに、人口構成や医療機関の分布を組み合わせて分析することで、診療科ごとの需給バランスを把握することも可能です。
大阪は人口規模が大きい一方で、エリアによって患者層や競争環境が大きく異なります。開業エリアを検討する際には、人口動態、医療機関数、診療科分布といったデータを総合的に確認しながら、自院の診療方針に合った立地を選ぶことが重要といえるでしょう。
参考データ
・地域医療情報システム(JMAP)
・地域経済分析システム(RESAS)