泌尿器科の開業では、物件を確保して医療機器をそろえるだけでは、安定した経営にはつながりません。尿検査や超音波検査、尿流測定、膀胱鏡などをどこまで院内で行うのかによって、必要な設備、内装、患者動線、スタッフ配置、収益構造まで変わるためです。
一方、前立腺肥大症や過活動膀胱などの保険診療を基盤にしながら、EDなどの自費診療、女性泌尿器科、骨盤臓器脱を含む女性の排尿トラブルまで診療領域を設計すれば、幅広い患者層に対応できます。
そこで今回は、泌尿器科の開業費用や年収の考え方、収益性を高める診療戦略、医療機器への投資判断、物件選びのポイントまで、開業を成功に導くための経営戦略を詳しくご紹介します。
泌尿器科特有の収益構造と他科にはない経営上の優位性

泌尿器科は、診察だけで完結せず、症状や疾患に応じて検査や処置を組み合わせる場面が多い診療科です。この特徴を診療の質と経営効率の両面から生かせるかどうかが、開業後の収益性を左右します。
処置と検査が引き上げる高い患者単価と低損益分岐点モデル
泌尿器科は、診察だけで完結するケースだけでなく、症状や疾患に応じて検査や処置を組み合わせることが多い診療科です。こうした診療特性を活かすことで、患者1人あたりの医業収益を確保しやすく、固定費を適切に管理できれば損益分岐点を抑えた経営も目指せます。
血尿、頻尿、排尿困難、残尿感、尿失禁などを訴える患者では、医学的な必要性に応じて尿検査、尿沈渣、超音波検査、残尿測定、尿流測定、膀胱鏡などを行います。
厚生労働省の「令和8年度 医科診療報酬点数表」では、尿中一般物質定性半定量検査は26点、尿沈渣(鏡検法)は27点、尿流測定は205点、膀胱尿道ファイバースコピーは950点と定められています。検査はあくまで診療上必要な場合に実施するものですが、泌尿器科では診察に必要な検査や処置が組み合わされることで、診察料だけに依存しない収益構造をつくりやすい点が特徴です。
ただし、検査項目が多ければそのまま利益が増えるわけではありません。膀胱鏡や尿流測定装置などの導入費、保守費、消耗品費、スタッフの作業時間も発生するため、収益とコストの両面から判断する必要があります。
開業前の収支シミュレーションでは、1日あたりの患者数だけでなく、
・初診と再診の割合
・疾患別の患者構成
・検査、処置の想定件数
・患者1人あたりの想定医業収益
・家賃、人件費、リース料などの固定費
まで設定しておくと、より現実的な損益分岐点を把握できます。
泌尿器科の強みは、「患者数が少なくても必ず黒字になる」ことではありません。必要な検査を効率よく診療に組み込み、患者1人あたりの医業収益を確保しながら、過剰な設備投資や固定費を抑えることで、黒字化しやすい経営体質をつくれる点にあります。
高齢者の保険診療と若年層の自費診療を両立するハイブリッド集患
泌尿器科の患者層を考えるとき、高齢男性だけを想定するのは十分ではありません。前立腺肥大症、過活動膀胱、排尿障害、尿路感染症、血尿、尿路結石など、保険診療で対応する疾患の範囲は幅広く、女性や現役世代にも受診ニーズがあります。
経営の土台となるのは、地域医療として継続性のある保険診療です。そのうえで、商圏の特性に合えばEDなどの自費診療を組み合わせる方法もあります。AGAを扱うかどうかは、泌尿器科との親和性や既存患者のニーズを踏まえて判断したいところです。性感染症については、症状がある場合の診療と、無症状での希望検査とで保険適用の扱いが異なるため、予約時やWebサイト上で費用区分を分かりやすく示すことが重要です。
保険診療と自費診療を両立させる際のポイントは、単にメニューを増やすことではなく、患者が受診しやすい導線を整えることにあります。
・一般泌尿器科と自費診療でWebページを分ける
・受付では受診目的を大きな声で確認しない
・Web問診を活用し、受付でのやり取りを減らす
・自費診療は予約枠を設定し、一般診療を圧迫しないようにする
・売上だけでなく、薬剤原価・決済手数料・広告費まで含めて採算を見る
自費診療には診療報酬に左右されにくいというメリットがありますが、広告費や薬剤費がかさめば利益率は下がります。「自費だから高収益」と単純に考えるのではなく、診療時間1枠あたりにどれだけ粗利益を残せるかまで計算しておくことで、経営判断の精度が上がります。
潜在ニーズを取り込む女性泌尿器科の展開と具体的な診療メニュー
女性泌尿器科は、一般泌尿器科の診療領域を女性患者が受診しやすい形で明確に打ち出す戦略です。頻尿、尿意切迫感、尿失禁、反復する膀胱炎、排尿困難などは女性にもみられますが、「泌尿器科は男性が受診する診療科」という印象が受診のハードルになる場合があります。
そこで、Webサイトや院内表示で「女性泌尿器科」「女性の頻尿・尿漏れ」「骨盤臓器脱」などを明示し、相談できる症状を具体的に示します。診療メニューとしては、たとえば次のような領域が考えられます。
・頻尿、過活動膀胱
・腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁
・膀胱炎などの尿路感染症
・排尿困難、残尿感
・骨盤臓器脱
・骨盤底筋訓練などの保存的治療
・必要に応じた専門医療機関への紹介
骨盤臓器脱では、膀胱瘤、子宮脱、直腸瘤などがみられます。クリニックでは、症状や診療体制に応じて問診・診察、排尿状態の評価、保存的治療や生活指導を行い、手術適応が考えられる患者は連携病院へ紹介する体制を整えておくと、外来クリニックとしての役割を明確にできます。
女性患者を取り込むうえでは、診療項目そのものと同じくらい受診体験が大切です。待合室で症状を周囲に聞かれない受付方法、診察室の遮音、採尿時に他の患者と交差しにくい動線などを整えることで、「ここなら相談しやすい」という評価につながります。
女性医師が泌尿器科を開業する場合は、女性患者にとって相談先の選択肢を広げる強みがあります。ただし、「女性医師がいる」ことだけを差別化要素にするのではなく、尿失禁や骨盤臓器脱にどこまで対応できるのか、検査内容、保存的治療、紹介先までWebサイトで明確にした方が集患につながりやすくなります。
女性泌尿器科の事業性は、全国一律の市場規模で判断するより、開業予定地の競合状況から見極めるのが実践的です。診療圏内で「女性泌尿器科」「尿失禁」「骨盤臓器脱」を掲げる医療機関を調べ、対応施設が少ない地域であれば、一般泌尿器科との差別化余地が生まれます。骨盤臓器脱を診るクリニックとして打ち出す場合も、診療できる範囲と連携先をセットで示すことで、患者にとって受診先を選びやすくなります。
参照・引用元:
厚生労働省「令和8年度 医科診療報酬点数表」D000(p.451)・D002(p.453)・D242(p.516)・D317(p.532)
妥協できない医療機器と投資回収を見据えた資金計画

泌尿器科は、一般的な診察設備に加えて、超音波診断装置や膀胱鏡、尿流測定装置、尿検査関連機器などへの投資が必要になります。どこまでの検査を院内で行うかによって、医療機器だけでなく内装や給排水設備の費用も変わるため、診療方針から逆算して資金計画を立てることが大切です。
ここでは、2,000万~5,000万円程度をひとつの計画目安とし、物件条件や導入機器に応じて必要額を積み上げて考えます。
参考として、日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、全業種を対象とした開業費用は平均975万円、中央値600万円となっています。この数字は、開業時に必要となる資金規模を考えるうえでのひとつの基準として活用できます。泌尿器科では、ここに専門的な医療機器や給排水を含む内装工事など、クリニック特有の費用を積み上げていくことで、より現実的な開業資金を算出しやすくなります。
軟性膀胱鏡とウロフロメーター導入における費用対効果
泌尿器科の医療機器は、価格だけでなく、想定する検査件数や診療への必要性、維持費まで含めて判断することが大切です。なかでも軟性膀胱鏡とウロフロメーターは、診療の質だけでなく、収益性や院内設計にも関わります。
厚生労働省の令和8年度医科診療報酬点数表では、尿流測定は205点、膀胱尿道ファイバースコピーは950点です。血尿や排尿障害などの診療を充実させるうえで、院内で検査できる体制は大きな強みになります。
軟性膀胱鏡は、本体だけでなく、画像関連機器や洗浄・消毒設備、消耗品、保守費まで含めて投資額を考えます。一定の検査件数を見込めるのであれば導入効果は高まりますが、使用頻度が低い場合は、開業後の患者数に応じて追加する方法も検討できます。
一方、ウロフロメーターは内装との関係が重要です。運用方法によっては専用スペースやトイレ周辺の給排水、電源、換気工事が必要となり、内装費が増える場合があります。ただし、前立腺肥大症や排尿障害を診療の柱とするのであれば、診断に活用できる設備として優先度は高くなります。開業時に導入しない場合でも、将来設置できるよう配管や電源、スペースを確保しておくと追加工事を抑えやすくなります。
投資判断では、
・想定する検査件数
・主要な診療領域との相性
・保守費や消耗品費
・必要な内装工事
・患者の利便性や診療への効果
を確認しましょう。
また、機器への投資だけで開業資金を使い切らないことも重要です。日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、全業種の開業時の資金調達額は平均1,219万円で、そのうち金融機関等からの借入が827万円、自己資金が279万円でした。必要な設備には投資しつつ、開業後の運転資金も残せる資金配分を考えましょう。
厚労省データから見る勤務医時代との年収比較と黒字化の壁
泌尿器科を開業すると、勤務医時代よりどの程度収入を増やせるのかは気になるところです。ただし、クリニックの売上がそのまま院長の年収になるわけではありません。開業後の収入は、医業収益から経費を差し引き、さらに借入返済や設備投資などを考慮して見る必要があります。
厚生労働省の「第25回医療経済実態調査」では、一般診療所の主たる診療科別集計に泌尿器科の独立区分がないため、「その他」の数値が参考になります。個人立で入院診療収益のない「その他」では、前年の1施設あたり医業収益は9,347万6,000円、医業・介護費用は7,117万1,000円、損益差額は2,230万6,000円、損益率は23.9%でした。対象は14施設です。
この約2,231万円は、院長の「手取り年収」そのものではありません。個人立診療所では開設者本人の報酬相当額が給与費に含まれておらず、損益差額には院長の所得となる部分のほか、建物や設備への再投資などに充てる資金も含まれます。
そのため、実際にどの程度の収入が残るかを見るときは、
・借入金の元本返済
・追加の設備投資
・運転資金として院内に残す金額
・税金や社会保険料
まで考慮する必要があります。
勤務医の給与と比べるとどうでしょうか。同調査の一般病院「全体」では、医師の前年の平均給料年額は1,324万9,327円、賞与は159万6,457円で、合計1,484万5,784円でした。泌尿器科勤務医だけの数字ではありませんが、勤務医の給与水準を考える参考になります。
「その他」の損益差額約2,231万円は、勤務医給与約1,485万円を数字上は上回っています。ただし、約2,231万円はクリニック経営で生じた損益差額であり、約1,485万円は勤務医として受け取る給与です。単純に差額だけを見て、「開業すれば約750万円収入が増える」と考えることはできません。
開業を検討するときは、全国平均同士を比べるより、自分の現在の年収と、開業後に見込む損益差額、借入返済後に残る資金を比較する方が現実的です。
また、黒字化までの期間を乗り切れる資金計画も欠かせません。開業直後は患者数が十分でなくても、家賃、人件費、リース料などの固定費は発生します。月ごとの患者数と売上を複数パターンで試算し、「何人の患者を診れば黒字になるのか」「想定より患者数が少なくても資金が回るか」を事前に確認しておきましょう。
泌尿器科の開業では、勤務医時代の年収を上回ることだけを目標にするのではなく、必要な設備には投資しながら固定費を抑え、借入返済後にも安定して資金が残る経営を目指すことが大切です。
参照・引用元:
日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」p.9~10
厚生労働省「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)」p.151、p.313、p.603
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/25_houkoku.html
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/25_houkoku_iryoukikan.pdf
厚生労働省「令和8年度 医科診療報酬点数表」D242(p.516)・D317(p.532)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9729&dataType=0
泌尿器科の開業を左右する物件選びと専門的な建築要件

泌尿器科では、待合室や診察室だけでなく、採尿用トイレ、処置・検査スペース、医療機器の設置場所なども必要になります。40坪前後をひとつの設計目安としながら、広さだけで判断せず、受付から採尿、検査、診察、会計までをスムーズにつなげられるかを確認することが大切です。
特に意識したいのが、患者・スタッフ・検体それぞれの動線です。採尿用トイレと検査スペースが離れていると、患者の移動負担が増えるだけでなく、スタッフによる検体回収にも手間がかかります。限られた面積でも、必要な設備を近くにまとめ、動線の交差を減らすことで業務効率を高められます。
また、泌尿器科では受診内容を周囲に知られたくない患者も少なくありません。とくに女性泌尿器科や性機能、性感染症などを扱う場合は、院内動線だけでなく、建物への出入りや待合室でのプライバシーまで含めて物件を選ぶ必要があります。
患者への配慮と業務効率のための検体パスボックス
泌尿器科の内装で取り入れたい設備のひとつが、採尿用トイレと検査スペースをつなぐ検体パスボックスです。患者が採尿カップを持って待合室や廊下を移動する必要がなくなり、プライバシーへの配慮とスタッフの業務効率を両立できます。
理想的なのは、採尿用トイレの壁を挟んだ反対側に検査スペースを配置し、その間にパスボックスを設ける形です。患者は採尿後、その場で検体を入れられ、スタッフは検査室側から回収できます。採尿から検査までの距離を短くできるため、院内を何度も往復する必要もありません。
設計時には、次の点を確認しておきましょう。
・患者側から検査スペースが見えない構造にする
・検体が置かれたことをスタッフが把握できる仕組みをつくる
・清掃、消毒しやすい素材を選ぶ
・患者名や検体番号を確実に照合できる運用にする
・手洗いや廃棄、検査機器までのスタッフ動線を短くする
パスボックスそのものを設置することが目的ではありません。採尿した患者が人目を気にせず検体を提出でき、スタッフも効率よく検査へ回せることが重要です。物件の構造上パスボックスを設置できない場合でも、採尿用トイレの近くに専用の受け渡し場所を設けるなど、同じ目的を実現できる方法を検討します。
プライバシーを守る空中店舗の優位性
泌尿器科は、排尿障害や尿失禁、性機能、性感染症など、受診していること自体を人に知られたくないと感じる患者も想定されます。そのため、必ずしも人通りの多い1階路面店が最適とは限りません。
エレベーターを備えた2階以上の「空中店舗」であれば、通行人から出入りを見られにくく、プライバシーを重視する患者にとって受診しやすい環境をつくれる場合があります。女性泌尿器科や自費診療など、受診時の心理的なハードルが高い診療を強化する場合には、こうした立地条件が集患面でプラスに働くことも考えられます。
また、物件によっては1階より賃料を抑えられるため、その分を採尿用トイレや検査スペース、遮音性の高い診察室などに振り向けることもできます。
一方で、高齢患者が多い泌尿器科では通院しやすさも欠かせません。空中店舗を選ぶ場合は、
・エレベーターがあるか
・入口まで大きな段差がないか
・車椅子でも移動しやすいか
・駅や駐車場から迷わず到着できるか
・採尿用トイレや検査スペースを無理なく配置できるか
まで確認します。
女性泌尿器科やプライバシー性を重視する診療を強化するなら空中店舗、高齢患者の通院利便性を優先するなら1階というように、単純に階数だけで優劣を決めるのではなく、想定する患者層と診療内容に合わせて選ぶことが重要です。
泌尿器科は患者の気持ちに寄り添って開業しよう

泌尿器科の開業では、収益性や設備投資だけでなく、患者が安心して受診できる環境をつくることが大切です。排尿障害や尿失禁、性機能など、人に相談しにくい悩みを抱えて受診する患者も多いため、診療内容だけでなく、受付方法や院内動線、プライバシーへの配慮がクリニック選びにも影響します。
前立腺肥大症や過活動膀胱などの保険診療を軸に、地域のニーズに応じてEDなどの自費診療や女性泌尿器科、骨盤臓器脱の診療を取り入れることで、幅広い患者に対応できます。そのうえで、必要な医療機器や人員、物件、開業資金を診療方針から逆算し、過剰な投資を避けながら無理のない経営体制を整えることが重要です。
「どのような患者に、どこまでの診療を提供したいのか」を明確にすることが、泌尿器科開業の第一歩です。患者にとって通いやすく、医師にとっても長く安定して運営できるクリニックを目指しましょう。
プラザ薬局では、クリニックの開業を検討している医師に向けて、物件選びや開業計画などの相談を受け付けています。泌尿器科ならではの設備や院内動線、資金計画を含めて開業準備を進めたい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。