2026.04.07

2026年改定で厳格化!薬局との「特別な関係」がクリニック経営を危うくする

2024年度診療報酬改定で導入された「特別な関係」規制は、クリニック経営に大きな影響を与えています。そして2026年の次期改定では、さらなる厳格化が避けられない状況となっています。中央社会保険医療協議会(中医協)での議論では、現行制度の「抜け道」を塞ぐ方向性が明確に示されており、医療モール型開業を検討する開業医や既存のクリニック経営者にとって、制度対応は喫緊の課題です。
そこで今回は、制度の本質的な意図から2026年改定の方向性、そして実務上のリスクまでを包括的に解説します。

 

そもそも「特別な関係」とは何か?制度的定義と背景

薬局とクリニックの関係性が問題視される背景には、患者の薬局選択の自由を守るという明確な政策意図があります。

 

特別な関係とは

「特別な関係」とは、医療機関と薬局の間に存在する経済的・人的な結びつきを指します。具体的には、不動産賃貸借契約における貸主と借主の関係、資本関係(株式保有など)、役員の兼任といった経営上の一体性が該当します。
たとえば、クリニックを経営する医療法人が所有する建物内に薬局が入居している場合、両者は不動産契約上の「特別な関係」にあると見なされます。また、クリニック理事長の親族が薬局の経営者である場合も、人的結びつきとして該当する可能性があります。

重要なのは、形式的な法人格の分離だけでは「特別な関係」を回避できないという点です。制度の趣旨は、実質的に経営判断が一体化している状況を規制することにあるため、表面上別法人であっても、実態として意思決定が連動していれば規制対象となります。

 

「敷地内薬局」とは何が問題だったのか

2016年に公表された「患者のための薬局ビジョン」では、薬局が地域の健康拠点として機能することが期待されました。しかし現実には、医療機関の敷地内や建物内に設置された「敷地内薬局」が増加し、特定の医療機関からの処方箋に依存する構造が問題視されるようになりました。問題の本質は、建物の物理的な位置そのものではありません。患者が「この薬局で調剤してもらわなければならない」と事実上感じてしまう環境、つまり処方箋が特定の薬局に集中せざるを得ない構造こそが問題視されたのです。

医療モール型開業では、患者の動線上、最も便利な位置に薬局が配置されています。患者にとって利便性が高い一方で、その便利さが「選択の自由」を実質的に奪う結果となり、薬局間の競争を阻害するという指摘が厚生労働省からなされました。この認識が、2024年改定での規制導入、そして2026年の厳格化へとつながっています。

 

2024年度改定で既に行われた対応と”抜け道”の存在

2024年度診療報酬改定では、「特別な関係」にある薬局に対して「特別調剤基本料A」が新設されました。この基本料が適用されると、通常の調剤基本料と比較して報酬が大幅に減額されるため、薬局経営に深刻な影響を及ぼします。
ただし、この制度には「ただし書き」が設けられており、一定の条件を満たせば特別調剤基本料Aの適用が除外される仕組みになっています。具体的には、処方箋の集中率が一定水準以下であることや、複数の医療機関から処方箋を受け付けていることなどが考慮されます。

問題は、この「ただし書き」が実質的な”抜け道”として機能してしまったことです。医療モール内に複数のクリニックを配置し、それぞれから処方箋を受け取ることで形式的に集中率を分散させたり、グループ全体としては一体経営でありながら法人を細分化することで規制を回避したりするケースが報告されています。中医協では、こうした制度の抜け道を利用した事例が問題視され、「制度の趣旨に反する運用」として厳しい指摘がなされました。特に、医療モールという形態を利用して、実質的には特定グループによる処方箋の囲い込みが行われている実態が明らかになり、2026年改定での抜本的な見直しが不可避となっています。

 

2026年改定に向けた中医協の議論ポイント

中医協における2026年改定に向けた議論では、現行制度の問題点を踏まえた厳格化の方向性が明確に示されています。
議論の中心となっているのは、「実質的な一体性」をどのように捉えるかという点です。従来の形式的な判断基準では、法人格を分離したり、複数の医療機関を介在させたりすることで容易に規制を回避できました。このため、実態に即した判断基準の導入が検討されています。
具体的には、医療モール全体を一つの経営単位として評価する視点や、グループ全体での処方箋集中率を算定する方法などが議論されています。また、不動産所有関係だけでなく、資本関係や人的関係についても、より広範な情報開示を求める方向性が示されています。
さらに注目すべきは、薬局側だけでなく医療機関側にも一定の責任を求める議論が始まっている点です。これまで調剤報酬のみで対応してきた規制を、診療報酬側でも評価する可能性が議論されており、クリニック経営に直接的な影響が及ぶ可能性が高まっています。

厚生労働省は「患者の選択の自由を実質的に保障する」という制度趣旨を徹底する姿勢を明確にしており、形式的な対応では通用しない厳格な基準が導入される見通しです。

 

処方箋集中率の扱いが変わる可能性

2026年改定で最も影響が大きいと予想されるのが、処方箋集中率の算定方法の変更です。現行制度では、個別の薬局ごとに集中率を算定しますが、この方法では医療モール内に複数のクリニックがある場合、見かけ上の集中率を下げることができてしまいます。たとえば、同一グループが運営する複数のクリニックからそれぞれ処方箋を受け取れば、形式的には「分散」しているように見えるのです。
中医協では、こうした実態を踏まえて、医療モール全体や経営グループ全体での集中率算定が検討されています。具体的には、同一敷地内または同一建物内にある複数の医療機関をまとめて評価する、あるいは資本関係や役員の兼任関係にある医療機関グループを一体として評価する方式です。

また、集中率の基準値そのものを引き下げる議論も行われています。現在は一定の集中率以下であれば「ただし書き」の適用を受けられますが、この基準が厳格化されれば、多くの医療モール型薬局が規制対象となる可能性があります。
さらに、集中率の算定期間を長期化することで、一時的な分散では対応できない仕組みも検討されています。これらの変更が実現すれば、医療モール型開業における薬局との関係設計は根本的な見直しを迫られることになります。

 

クリニック経営者が知るべき”具体的リスク”とは

「特別な関係」規制の厳格化は、薬局側の調剤報酬が下がるという単純な問題にとどまりません。クリニック経営そのものに、複数の深刻なリスクを同時にもたらします。

まず最大の懸念は、テナント薬局の撤退リスクです。特別調剤基本料Aが適用され、採算が合わなくなった薬局が撤退すれば、患者は遠方の薬局まで移動せざるを得なくなります。これは高齢者や慢性疾患患者にとって大きな負担となり、

・患者満足度の低下
・再診率の低下
・競合クリニックへの患者流出

といった形で、集患力に直接的な悪影響を及ぼします。


次に、医療モール全体の価値低下リスクです。薬局は医療モールの中核テナントであり、その空室は

・モールの利便性低下
・他テナントの来院者数減少
・不動産としての資産価値の下落

を招きます。結果として、開業時に描いた投資回収計画が大きく狂う可能性が生じます。

さらに、2026年改定では、診療報酬側での評価導入も議論されています。これが実現すれば、薬局だけでなくクリニック自身の診療報酬が減額される可能性があり、収益構造に直接的な打撃を与えます。


また、金融機関との関係悪化も重要なリスクです。制度変更によって当初の事業計画の達成が困難になれば、

・融資条件の見直し
・追加担保の要求
・借換え交渉の難航

といった形で資金調達面の不確実性が高まります。

最後に見落とせないのが、コンプライアンスおよびブランドリスクです。形式的な法人分離や処方箋の操作といった“規制逃れ”が発覚すれば、社会的評価の低下を招き、地域からの信頼を失う恐れがあります。これは短期的な収益以上に、クリニック経営の基盤そのものを揺るがすリスクと言えるでしょう。

 

よくある質問

 

Q1.「特別な関係」は具体的にどう判断される?

多くの開業医が誤解しているのが、「別法人だからOK」という認識です。しかし制度の判断軸は、形式的な法人格の分離ではなく、実質的に経営が一体かどうかという点にあります。
具体的な判断要素としては、不動産の賃貸借関係、資本関係(持株比率など)、役員の兼任状況、親族関係、取引関係の集中度などが挙げられます。たとえば、クリニックの理事長個人が薬局の株式を保有している場合や、クリニックの事務長が薬局の取締役を兼任している場合などは、明確に「特別な関係」と判断される可能性が高いです。
また、第三者が形式的に介在していても、実質的な意思決定権がクリニック側にある場合は規制対象となります。たとえば、親族が経営する不動産会社を介して薬局に賃貸している場合や、表向きは独立した薬局でも実質的にクリニック側が経営方針を決定している場合などです。
2026年改定では、こうした実質的な判断基準がより明確化され、開示義務も強化される見通しです。

 

Q2. 敷地内薬局だと何が起きる? 報酬以外の影響は?

敷地内薬局が特別調剤基本料Aの対象となれば、薬局の収益は大幅に減少します。これにより薬局経営が立ち行かなくなり、最悪の場合は撤退に至ります。
薬局が撤退すれば、患者は処方箋を持って遠方の薬局まで移動しなければならず、特に高齢者や身体の不自由な患者にとっては大きな負担となります。この利便性の低下は、患者がクリニックを選ぶ際の重要な判断材料となり、競合クリニックへの患者流出を招く可能性があります。
また、医療モール全体の集患力も低下します。「ワンストップで診察も調剤も完結できる」という医療モールの最大のメリットが失われれば、テナントとして入居している他のクリニックにも悪影響が及び、モール全体の空室率上昇につながります。
不動産オーナーとしての立場では、テナント収入の減少に加えて、物件価値の下落という問題も生じます。これは金融機関からの評価にも影響し、将来的な資金調達の条件悪化にもつながりかねません。

 

Q3. 医療モール開業でクリニック側が注意すべき点は?

医療モール開業を検討する際、短期的な開業メリットばかりに目を向けるのは危険です。確かに初期投資を抑えられ、薬局との連携で集患しやすいというメリットはありますが、中長期的な制度耐性を見据えた判断が不可欠です。

まず、薬局との関係設計においては、形式だけでなく実質的な独立性を確保することが重要です。不動産契約、資本関係、人的関係のいずれにおいても、「特別な関係」と見なされないよう慎重に検討する必要があります。契約書の文言だけでなく、実際の運営における意思決定の独立性、取引の透明性、第三者との比較可能性なども考慮すべきです。たとえば、賃料設定が市場相場と比較して適正か、契約条件が一般的な商慣習に沿っているかなどが問われます。
また、開業時の事業計画には制度変更リスクを織り込んでおくことが賢明です。薬局テナントが撤退した場合の代替戦略、診療報酬の減額が生じた場合の収支シミュレーションなど、複数のシナリオを想定しておく必要があります。
さらに、医療モールの運営会社やデベロッパーが制度対応をどう考えているかを確認することも重要です。厳格化が進む中で、モール全体として制度遵守の姿勢が明確でない場合、将来的なトラブルに巻き込まれるリスクがあります。

 

Q4. 2026年改定で集中率の扱いはどう変わりそう?

中医協での議論を見る限り、集中率の算定方法は大幅に厳格化される見通しです。最も可能性が高いのは、医療モール全体での集中率算定です。

現在は個別の薬局と個別の医療機関との関係で集中率を算定しますが、改定後は同一敷地内または同一建物内にある複数の医療機関をまとめて一つの「医療機関グループ」として評価する方式が導入される可能性があります。
これにより、医療モール内に複数のクリニックを配置して形式的に処方箋を分散させる手法は通用しなくなります。たとえば、A、B、Cという3つのクリニックが同じ医療モールにあり、それぞれから30%ずつ処方箋を受け取っていても、モール全体としては90%の集中率と評価されることになります。
また、資本関係や役員の兼任関係にある医療機関についても、同様にグループとして評価される可能性があります。これは医療モールという物理的な形態に依存しない規制となるため、より広範な影響が予想されます。
さらに、集中率の基準値そのものの引き下げや、算定期間の長期化も議論されています。これらが組み合わされることで、従来の”すり抜け”手法はほぼ通用しなくなると考えられます。

 

まとめ — クリニック視点で考えるべき制度対応ポイント

「特別な関係」規制は、2024年改定で導入されたばかりですが、既に2026年の厳格化が確実視されています。この動きは一時的な政策ではなく、患者の選択の自由を守るという明確な政策意図に基づいた構造的な変化です。

クリニック経営者が認識すべき最も重要な点は、この規制が薬局だけの問題ではないということです。薬局の経営悪化や撤退は、患者の利便性低下を通じてクリニック自身の集患力に影響し、医療モール全体の価値を毀損します。さらに、診療報酬側での評価導入も議論されており、クリニックの収益に直接的な影響が及ぶ可能性も高まっています。
形式的な対応で規制を回避しようとする姿勢は、中長期的にはリスクを高めるだけです。2026年改定では、実質的な一体性を見抜く厳格な基準が導入される見通しであり、表面的な法人分離や処方箋の分散では対応できなくなります。

これから医療モール型開業を検討する場合は、短期的な利便性やコスト削減だけでなく、5年後、10年後の制度環境を見据えた判断が必要です。既存のクリニックにおいても、薬局との関係を早期に見直し、実質的な独立性を確保する対応が求められます。制度対応を後回しにすればするほど、将来的な選択肢は狭まります。今こそ、中長期的な視点でクリニック経営の持続可能性を再検討する時期といえるでしょう。